「THE LONGING HOUSE 」‐6‐若者は荒野を行け
「THE LONGING HOUSE 」‐6‐若者は荒野を行け
現場の風景は日々変化します。
訪れるタイミングで随分印象が違ってくるものです。

前回の上棟式の際、クライアントであるお母様は革靴にもかかわらず、ハシゴを途中まで登られました。
もし何かあってはと皆で止めて、真ん中あたりまでで我慢して頂いたのです。

監督に「お母様にも登ってもらえるハシゴってないかな」と相談していたら、仮設階段が完成していました。

早速監督が昇ってみると「ちょっとしなるなあ」と。

その場で、若い大工が中央に垂直部材を加えてくれた改良版です。
お母様、奥様にも安心して2階を見てもらえたのです。

2階の一番奥は、光が差しこんでくるのが良く分かります。
棟梁が担当のよう。

1階も南に面した開口はできるだけ高くまで確保しました。

そこで更に若い大工が加工をしていました。
聞くと、こちらの若者は棟梁の息子さんとのこと。
現在は大学に通っていますが、ほぼ授業がないので手伝いに来ているそうなのです。
それを聞いて、少しは話をしてみました。
「大工を仕事にはしないの?」と聞くと、「考え中なんです」と。
なかなかに良い表情をしており、愛嬌も感じます。
あまり勧めすぎるのも良くないのですが「いい仕事だと思うよ」とだけ伝えたのです。

家庭での顔は知りませんが、お父さんは「ザ・棟梁」という感じの寡黙な職人肌で、非常に好感が持てます。
実際、親子大工は非常に多く、1階、2階と別れて仕事をしていることが多いのです。
もし彼が大工になったなら、大卒サラブレッド大工となる訳で、この職人不足の時代、重宝されることは間違いありません。
勝手なことを言えば、これから30年位は私も枕を高くして眠れるというものです。
棟梁はどんな気持ちでいるのだろうと考えてしまいました。

帰る頃には日が暮れてきました。
職業選択の自由は、憲法によって保障されています。
また、人生において、職業の与える影響は本当に大きいとも思います。
私も人の親で、とても他人事とは思えませんでした。
ただ、本当はこう思っています。
「若者は荒野を行け」
平坦で、行先の分かっている舗装道路は、どうせエリートで一杯ですから。
文責:守谷 昌紀
■■■1月27日 『Best of Houzz 2021』を「中庭のある無垢な珪藻土の家」が受賞
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◇一級建築士事務所 アトリエ m◇
建築家 守谷昌紀のゲツモク日記
アトリエmの現場日記