自由な手たち木工教室、現る

家結び

以前にキッチンを作らせて頂いた「お台所」の茅ヶ崎のKさんは、6年生の先生です。
そのKさんから、夏ごろから相談を頂いていたことがありました。

「イマイさん、木工教室を良くされていますよね。もし、良かったら、うちの生徒にもその物作りの楽しさを知ってもらいたくて、授業を行ってもらえませんか。」って。

楽しさと不安が入り混じってスタートした今日でしたが、みんな目をキラキラさせて話を聞いてくれて、渡した板と棒であれこれ悩んでくれて、これからの展開が楽しみです。

この授業には、2つの大きなことを学んでもらえたらと考えておりました。
まずひとつは、純粋にものを作る楽しさ。
近年の社会では、物を作ることよりも、そのできあがった物をいかにうまく使いこなせるかが大切、という傾向が少しずつ強くなってきているように思えることがあります。

でも、一番大切なのはそのもの自体を作ることができる、ということ。
こういうものがあったらきっと僕はこういうことができるだろう、私はこういうことができるだろう、こういう人たちが喜ぶだろう、こういうものを作ったらきっとみんな美味しいって言ってくれるだろう・・。
ものを作るということは、とても素晴らしいことなのです。

そこで、この板と棒を使って、どんなものができるか、それを漠然とした材から考えてもらおうと思ったのです。

そして、その形はもちろん無限大です。もともとは、7本と木の棒を並べて木の板に置くと、私たちが作っている小物雑貨の「P.A.tray」に似た形になるということでこのパーツ選びをしています。

でも、考え方によっては、板を棒で囲って、小さなお盆にしたり、棒をさいころのようにカットして、板にくっつけてお膳のようにしたり、また、お話しに来てくれた男子は、棒を板の横につけて動かして・・、ととても魅力的なことを考えていました。

みんなが物を作ることに対してどう思ってくれるか、楽しんでくれるかそれが一つの課題です。

社会の中で物を作っていくということ

もう一つが、ひとつの社会の中で物を作っていくということ。
ものを作るのは楽しくても、ただ好き勝手に作れば良いという機会は、社会に出ると少なくなってきます。世の中にとって、地域にとって、家族にとって、大切な人にとって必要とされているものは何だろう。そういう必要とされているもの、こんなものがあったら良いな、そう思えるものをテーマにもの作りを考えてもらおうと思っています。そして、それは個人個人で考えるのではなく、何人かのグループになって考えます。何人かで考え、その中で一番良いと思ったものをそのメンバーがそれぞれ同じものを作ります。

自由に何でも作るのではなく、必要な物、優れていると思う物をみんなで話し合い、みんなで決めた一つの形を、みんなそれぞれが作っていくのです。

「こういう作品は優れているけれど、ここは女の子が多いから、きっと作業が苦手かも知れない、もう少し簡単に加工ができるデザインにしようよ。」
「このパートは○○君が得意だから、彼に任せて、私たちはこのパートを作るわ。そして、あとはみんながそれぞれ完成させましょう。」

そういう意見が交わされると面白いなと思っています。

この2つの課題を終えたあとは、みんなの一番苦手な発表会です。
「僕たちは、こういう理由でこの形にしたよ。この形の良い点はこうだよ。この木の色をこういうふうに生かしたんだ。」

そんな発表が聞けるのを楽しみにしています。

それから、今日一番うれしかったのは、最初は神妙な顔つきで話を聞いていたみんなですが、材料が渡されると途端ににぎやかになった。それもうれしかったのですが、途中でアキコがささやきました。

「材の名前や色の違いを一応説明してあげたら。どういうふうにみんなが思ってくれるか分からないけれど、ひとつの情報として知ってもらえたら、それを参考にしてもの作りの方向が広がるかも。」

6年生でそこまで分かってもらえるかな・・、とちょっと思ったのですが、とりあえず説明を。

「これはブラックウォールナットと言って、アメリカで採れるクルミの木です。そして、こちらは日本のクルミの木。色がこんなに違うでしょう。そして、これはタモと言って野球のバットにも使われる粘りのある、弾力のある材です。そして、こちらはナラ材。外国ではオークとも呼ばれます。皆さんはまだ飲めませんがウイスキーの樽に使われている材です。だから、ウイスキーの匂いを嗅ぐとナラの匂いがするんです。この棒も水で湿らせるとちょっと甘い良い香りがしますよ・・、などなど」

そんな話をした途端、生徒たちが私たちのほうに走り寄ってきました。
「バットに使う木でそろえたいんです。」
「一番柔らかくて加工しやすい木はどれですか。」
「全部の棒の種類を変えたいんです。」

などなど。

時々数本しか持ってこなかったチェリーやホワイトアッシュなどを、「これは何の木ですか。」と聞きに来る子もいて、「おっ、数本しかないチェリーだよ。レアものだね。」と伝えると、目をキラキラさせて「やったあ。」って。

そうか、みんなやっぱりいろいろ知りたいんだ。楽しんでいるんだ。
それが一番うれしかったです。

これからも授業も皆さん頑張りましょうね。

プロフィール

今井 大輔(フリーハンドイマイ)

注文家具屋 フリーハンドイマイ

私たちが作るのは、注文家具です。たった一枚の棚板にも、作る人・使う人の思いが込められています。
ふっと何気なく戸棚の扉を開けた時、
「あっ、これが注文家具なんだ・・・。」
と言ってくださった方もいらっしゃいます。

私たちが作るのは、注文家具です。私たちが提案するのはその家具がお部屋に運ばれたあとの暮らしです。使うその人の暮らしを演出し、また永くつきあってゆけるものを私たちはつくり続けています。

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