画期的な1冊!『インサイドボックス~究極の創造的思考法』ドリュー・ボイド、ジェイコブ・ゴールデンバーグ著

要約:『インサイドボックス  ―究極の創造的思考法―』 ドリュー・ボイド、ジェイコブ・ゴールデンバーグ著、池村千秋訳

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要約者レビュー

画期的な1冊だ。
創造性とは、限られた人たちだけが持つ、特別な才能だと思っている人が大半だろう。本書によるとそうではない。創造性とは、方法を学べば誰もが修得できる技能なのだ。

今まで、創造的な思考とは、いかに〈枠の外(アウトサイドボックス)〉で発想できるかということだと考えられてきた。しかし、著者らが数百点に及ぶ商品のイノベーションを研究したところ、その正反対のことを考えるに至った。イノベーションを導きだすには、制約の中、〈枠の中(インサイドボックス)〉で考えることが有効だという。

例えば〈枠の外〉からアイデアを得ようとするブレインストーミングは、研究の結果、一人で静かに考えるのと大して変わりない効果しか得られないそうだ。アイデアはどこからか降ってくるものではなく、その時の制約条件の中で、あるテクニックに添って順々に考えていけばたどりつけるものだというのである。

テクニックは「引き算」「分割」「掛け算」「一石二鳥」「関数」という5種類に収斂される。例えば「引き算」というテクニックから生まれたイノベーションには、たとえば旅客航空サービスからさまざまな機内サービスを引き算した格安航空会社、従来型のヘッドホンから耳カバーを取り除いたイヤホンなどがある。

要約では〈枠の中〉という考え方と、「引き算」と「掛け算」のテクニックをご紹介している。
ぜひ本書を手に取って、これらの方法論を試していただきたい。あなたの日常が、会社が、変わるかもしれない。(熊倉)

本書の要点

・イノベーションとは、才能ではなく技能である。問題を〈枠の中(インサイドボックス)〉で考えれば、創造的なアイデアを見出すことができる。

・インサイドボックス思考法には製品やサービスの、 1.一部を取り除いてみる「引き算」、2.構成要素を切り分けて考える「分割」、3. 一部を増殖させて変更を加えてみる「掛け算」、4.一つの要素に複数の機能をもたせて考える「一石二鳥」、5.一つの要素が変わると、それに合わせて別の要素が変わるように考えてみる「関数」 という5つのテクニックが存在する。

■ 【必読ポイント!】 イノベーションは〈枠の中〉に

□ スポーツ界屈指のイノベーション、背面跳びの真実

ディック・フォスベリーという走り高跳びの選手が開発した背面跳びは、スポーツの歴史に残るイノベーションと言われている。当時主流だったのは、助走してバーに向き合う形で跳躍し、バーを下に見る状態で、体を回転させてバーを飛び越す、「ベリーロール」という跳躍法だった。だが、フォスベリーが新たな跳躍法で革命を起こし、1968年にはオリンピックで優勝するなど成功を収めたことで、十年経つころにはほぼすべての選手が背面跳びを採用するようになった。

この背面跳びのエピソードは、〈枠の外〉の発想で考えられた事例の代表のように扱われがちだが、実際はそうではない。フォスベリーは、ベリーロールが苦手だったため、それまで得意だったはさみ跳びを、より記録が伸びるような跳び方へ改良していったのだ。はさみ跳びをするとき、お尻を高く持ち上げるようにしていった結果、背面跳びは生まれた。すなわち、このイノベーションは、〈枠の中(インサイドボックス)〉で考えられ、導かれたものだったのだ。創造の種は、今まで彼がやってきた跳び方の中にあった。

遠くに思いを馳せて新しいものを生み出せるケースはほとんどない。目の前の世界とは関係ないことを思いついたり、さらには考えが抽象的すぎたりすることが多い。

創造性を着実に発揮するためには、問題や状況の内側に目を向け、選択肢を広げずに制約し、「閉じた世界」――問題の周辺のごく狭い領域――で考えるほうがうまくゆくのである。

□ 〈枠の中〉で考える――「閉じた世界」とはどんなものか

「閉じた世界」とはどういうもので、それを生かして創造性を発揮するにはどうすればいいか。一つの事例を挙げる。

たとえば、メキシコの寂しい海辺で、自動車が砂にはまりこんで前に進めなくなったとする。まわりには誰もいない。木の棒や紙をタイヤの下に差し込めばタイヤの空回りを防げるが、そういうものもない。

そこにあるのは「閉じた世界」だけだ。外から助けがやってくることはない。自動車の中を、〈枠の中〉をよく見ること。ブレインストーミングのように大量のアイデアをひねり出そうとしたり、連想思考を試みたりすることはお勧めしない。そうしたアプローチはむしろ思考を問題から遠ざけてしまう。

内側に目を向ければ、タイヤと砂の間に差し込むものが必要なことに気付くだろう。「閉じた世界」の原理によると、道具は自動車の中にあるのだ。車内で使えるもの…マットがある! マットの表面は摩擦があり、タイヤが空回りしない。これで、無事に砂地獄を抜け出せるというわけだ。

□ 「閉じた世界」は外の世界より豊かだ

今日の創造性研究者の大半は、多くの案やヒントがありすぎると、アイデアの創出が妨げられると考えている。自由ではなく制約によって創造性が強化されるという考え方は、突飛なものではない。

問題周辺の世界だけを見るようにすると、見つかるアイデアの数が少なくなることは事実だが、外の世界に目を向けたときに見つかるアイデアよりはるかに創造性が高い。もちろん、外の世界に最善の答えがないわけではない。しかし、「閉じた世界」で問題の解決策を探せば、ほぼ確実に創造的なアイデアは見いだせる。

本書では〈枠の中(インサイドボックス)〉を探索するためのテクニックとして「引き算」「分割」「掛け算」「一石二鳥」「関数」の5つが紹介されている。
要約ではこのうち2つをご紹介しよう。読み進めていけば、〈枠の中〉の世界は、閉ざされた世界だが、けっして狭いわけではないことが分かるはずだ。

■ 引き算のテクニック

□ 先進的麻酔機器から要素を取り除いて革新

まず、「引き算」のテクニックをご紹介する。あるシステムの構成要素の一つを取り除いて考える方法だ。思い込みや固定観念が敵となるが、ひるんではならない。そして、取り除かれた要素を、「閉じた世界」の中にある要素を使って代替させることを考える。

ジョンソン&ジョンソンが開発した麻酔機器は最先端のものだった。もう改良すべき点などないと思われていたが、インサイドボックス思考法のワークショップがおこなわれた。

ワークショップでは、「引き算」のテクニックを用いた。すべての構成要素を洗い出し、特定の要素を一つ取り除いたらどうなるかを考えさせたのだ。

たとえば、予備バッテリー。予備バッテリーの搭載は法律で義務付けられているため、開発チームは予備バッテリーを外すことなど考えたこともなかった。だが、予備バッテリーがなくなれば「軽量化、コスト削減、製造の簡便化」「かさばる予備バッテリーがなくなれば、製品はとてもシンプルになる」という意見が出た。

確かに予備バッテリーをなくせば大きなメリットが得られそうだ。ならば、「閉じた世界」の中で代わりになる要素を探せるか、と問いが出された。この麻酔機器のケースでは、機器を用いる場である手術室を「閉じた世界」と位置付けた。

すると、「すでに手術室に設置されている別の機器の予備バッテリーに、麻酔機器を接続すればいいのでは。たとえば、除細動器(心臓のはたらきを回復させるための機器)から。除細動器には、もしもの場合両方の機器を動かすだけの電気が蓄えられている」という発言があった。こうして誰もが、このシンプルでエレガントな解決法に驚き、イノベーションの可能性に気づくこととなった。

□ 電話をかけられなくして大ヒットした携帯電話

既存製品の中核的機能を取り除いたことで大ヒット商品が生まれた事例がある。その商品とは、モトローラの携帯電話「マンゴー」だ。

モトローラのイスラエル部門のマーケティング担当副社長は、低価格競争に勝つために、なんと携帯電話から電話をかける機能を取り除いた。つまり電話を受けるだけの携帯電話である。

こうして特殊なニーズを持つ人向けの、新しいコミュニケーション機器は結果的に大ヒットとなった。ティーンエージャーの子どもをもつ親に絶賛されたのだ。子どもに持たせても、通話発信機能がないので、使いすぎて料金がはね上がることがない(イスラエルでは、着信機能だけ使うぶんには通信料は無料)。それでいて、親からはいつでも連絡が取れる。しかも、低価格なので破損しても痛手が少なく、ややこしい料金プランもないためスーパーマーケットでも売ることができたからだ。

また、人生最初の携帯電話として「マンゴー」を使った子どもは、大人になってからもモトローラの携帯の愛用者になる確率が高かった。
「マンゴー」は、企業の顧客にも好評で、発売から一年以内に市場の5%が「マンゴー」を購入した。その年、イスラエルは携帯電話普及率で世界第2位に踊り出たのである。

■ 掛け算のテクニック

□ たばこの束から革新された高層ビルの設計法

次は、「掛け算」のテクニックだ。「閉じた世界」の内側にある一つの要素を何倍かに増やし、増やした個々の要素に異なる性質を持たせることで、イノベーションを成し遂げる。

建築家ブルース・グラハムが手掛けたイノベーションについてご紹介しよう。1973年にシカゴにオープンした高層ビル、シアーズ・タワー(現ウィリス・タワー)のことだ。

高層ビルは、下の階に行くほど建物自体と人の重さがかかるので、その重みに耐えられるような構造が必要だ。また、上層階は、軽く、小さく、しかし水平方向に加わる風の力に持ちこたえられるようにつくらねばならない。

建物の周辺部に柱や梁を集中させた、チューブ構造のビルを建てるという方法はあった。こうした建物なら、強度も保たれ、風による揺れに強く、建設コストも抑えられる。しかし、グラハムはもっと斬新なものを建てたかった。 やがて、いいアイデアを思いついた。九本のたばこを束ねたものを思い浮かべてみてほしい。その束の一本を少し上にずらす。さらに、別の一本をもう少し上にずらし、また別の一本をずらした。高さの違うチューブ構造の建造物を束ねて、一つの高いビルを建てるというのが彼のアイデアだった。

チューブとチューブを特製の鉄骨でつなぎとめることによって、一本のチューブでつくるよりも建物は構造上堅牢になった。そして、当時としては世界で最も高いビルをつくることに成功した。シアーズ・タワーは、高さ世界一の座を長く維持した。 本人に自覚はなかったと思うが、グラハムは、「掛け算のテクニック」を実践していた。この場合、チューブ構造の建物を何倍にも複製して高さを微妙に変えたことにあたる。

□ 害虫を増量して害虫を制す

意外に思えるかもしれないが、掛け算のテクニックの有効な進め方の一つは、問題のもっともやっかいな要素を増量し、そして増やしたものを問題解決に役立てることである。

ツェツェバエが媒介する病気は大変恐ろしい。アフリカトリパノーマ症(睡眠症)は、身体をスムーズに動かせなくなり、睡眠周期が乱れ精神が錯乱をきたす恐ろしい病気だ。そのままにしていると、精神機能が低下しつづけ、昏睡状態を経て死に至る。

アフリカ大陸東岸のウングジャ島(ザンジバル島)の住民は、何世紀も前からこの病気に苦しめられてきた。

それまで科学者たちは害虫根絶をめざすうえで、オスとメスの交尾を悪材料と決めつけていた。だが必要なのは逆転の発想だ。なんと彼らはオスのツェツェバエを何万倍にも増やしてはなったのである。

実はこのとき、ツェツェバエのオスを放射線を当てて不妊化させさせていた。ツェツェバエのメスが交尾するのは生涯に一度だけ。そのため、不妊化したオスと交尾すると、繁殖することはなくなるのだ。こうして個体が死んでいくにつれて、この地域のツェツェバエの数はみるみる減り、ついに根絶することに成功したのである。

注:5つのテクニックについては、豊富な事例と方法論の詳細な進め方が記されている。どの事例にしても、結果を見ればあっと驚くイノベーションだが、それが方法論から導き出せるものだということは、実に興味深い。要約では紹介していないが、「分割」「一石二鳥」「関数」のテクニックも、なるほどと感じ入る内容である。
本書にまとめられた学術的成果を、ぜひさまざまな場で活かしていただきたいと思う。

この記事はYahooニュースより転載しています

プロフィール

東恩納 尚縁

将来の夢は孫と一緒に暮らすこと。

孫ができた為、将来は娘夫婦と二世帯住宅の夢を持っています。
「住まい」について考えたコラムを寄稿しています。

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