■油断大敵
 設計段階で建主として理解しなければならないことは、技術や建物の工夫には限界があることです。実は窃盗犯罪の30%は無施錠の窓から侵入しているのであり、住み手のちょっとした油断を犯人は見逃しません。また、設備技術の向上に比例して人間の油断も高まります。例えばマンションではオートロックがある場合ほど、また高い階ほど、窓に鍵をかけない人が多く、それを専門に狙う窃盗犯もいます。また、防犯はその代償として不便をもたらします。鍵穴の高さを変えることは、鍵を入れにくさにつながることもあります。さらに防犯はあくまで危険率を下げる予防策であり、あらゆる種類の窃盗に対する100%の安全保障は不可能なことも、理解しておく必要があります。このようにセキュリティ対策は、技術だけではなく、住み方も含めた総合的、継続的な闘いとなるのです。(つづく)

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■情報戦を制する
 住宅窃盗犯への対策として大切なのが、町の視線の存在を感じさせることで、窃盗犯が自分の存在=情報があらわになっているような気にさせることです。同時に重要なのが、住み手の情報を犯人に与えないことです。いわば情報戦を制するものが勝つということです。
 犯人は不在確認のため、インターホンを鳴らす、郵便物から電話番号を調べ電話をかける、電気メーターを見る等、様々な方法をとります。その対策として「ポストに鍵を付ける」ことや「メーターに扉をつける・隠す」など地道な工夫が求められます。ただし、メーターを奥に配置するとアクセススペースが広がり防御しにくいため、注意を要します。これらの細かな工夫は入口周りへの配慮なのでデザインのしがいはあります。
 また、住み手の防犯意識が高いことを知らしめることも有効です。先ほどセンサーライトやカメラの設置が、効果大と書きましたが、さらに工夫を加え、外のライトがついて数秒してから室内灯がつくようにすれば、侵入者はびっくりすることでしょう。
 このようにコストをかけずに防犯する方法は、いくらでも考えられます。玄関の鍵一つとっても高さを変えるだけでピッキングはしにくくなります。また、鍵穴を隠せばデザイン上も美しい玄関扉が誕生します。ちょっとした工夫が防犯対策となり、さらに新しいデザインの誕生にもつながるわけです。(つづく)

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■【ケアゾーン】と【ケアフリーゾーン】
 住宅窃盗犯は、自分独自の盗みの方法を確立した専門気質の人が多く、先のことまで予想がつく予定調和の犯行を好みます。いいかえると変わった家は狙わない傾向があります。その意味で「建築家の家はそもそも防犯上すぐれた性能を有している」と言うことができるでしょう。もっともごくわずかですが、世の中には、建築家設計の家を専門に狙う変わり種が存在するのも事実です。(知り合いの建築家で自邸に窃盗に入った犯人とはち合わせ方がいます)。ですから、建築家に頼んだから大丈夫と油断をせずに、守る側としても、さらに技を凝らしていくことは大切です。
 具体的な方法をお伝えしましょう。まず、道路から人目に付かない影の部分を【ケアゾーン】と位置づけ、集中的に侵入防止の備えを施せば、効率的な防衛が可能となります。逆に人目に付く場所は、防犯にとらわれず自由にデザインしてよい【ケアフリーゾーン】と言えます。また同じ外部空間でも、玄関廻りやメーター廻りなど外来者がいても不自然でない「アクセススペース」と、住人以外の人がいると不自然な「プライベートスペース」とは、明確に分離することが望ましいです。外来者の制御が防衛の鉄則だからです。また「アクセススペース」は十分に町の目を浴びさせると共に、「プライベートスペース」にも、わずかでも町の目を届かせることで「ケアフリー」に近づけることができる。いわば、町の目を浴びる量と半比例して、重厚に防犯していけばいいわけです。(つづく)

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■抑止の方法
 住宅窃盗犯に有効な抑止の方法について考えてみましょう。住宅窃盗犯は捕まることを何よりも恐れているので「町の目・人の目」による監視力が期待できます。人目を引く住宅は、それだけでねらわれにくいのです。また、敵の計画性やルーティーンワークを好む習性は「普通でない・変わっている」住宅を嫌います。いつもの犯罪パターンが当てはまらないからです。さらに建築部位・ディテールが「変わっている」だけでも、専門技を封じ込められるので、安全となります。総括すれば「個性的で一品生産の住宅」は危険率が低いわけですが、まさにこれは建築家の設計する住宅共通の属性であり、建築家の家はスタートにおいて既に防犯上すぐれた性能を有しているということができます。(つづく)

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■「抑止」と「防御」
 空き巣には、私たちが普通に考える「住宅窃盗犯」というタイプとは別に「住宅強盗犯」とでもいうべきタイプがいます。こっそり入り気づかれずに盗むのではなく、力尽くで入り込み盗み尽くすというタイプです。ここで、家=巣のもつ「抑止」と「防御」という2つの構造とを照らし合わせると、興味深いことがわかります。
 「住宅窃盗犯」の職人タイプに対しては「抑止」が大いに効果を発揮します。いわば、設計者+住み手vs犯人の知恵比べです。
 一方、「住宅強盗犯」の凶暴種に対しては、もはや知恵比べは通用せず、力比べをするしかありません。盗難対策以前に自分の命を守らねばならず、家の中に最終避難室=パニックルームをつくることまで視野に入れた防御が必要となります。予算・面積共にゆとりがないと難しいですが、狙われるのも裕福な層に限られます。両者の防御はまったく異質であり、分けて考える必要があるわけです。
 家づくりにあたっては、出会う確率の高い職人タイプに対応しつつ、凶暴種への防御グレードについては建主と相談しつつ決めていくのが現実的です。誰もが考えなければならない職人タイプへの対応について、次に作戦を立てていきます。(つづく)

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■住宅『強盗犯』について
 前回は、住宅窃盗犯には2つのタイプがあること、および、そのうちの1つのタイプの素顔について、お伝えしました。
 もう一つの極は、強烈です。ここ10数年登場してきた強盗ともいうべき凶悪犯で、外国人に多くグループで犯行します。大金を手にするためには方法をいとわないハイリスクハイリターン指向です。方法は力ずくで、例えばガラスを壊すのではなく壁そのものを壊すほど凶暴で、通常の防犯設備では対抗できません。住人・隣人はもとより警備会社の警備員をも恐れず、制止しようと人が近づけば逆に撃退してしまいます。唯一恐れる警察官が到着するまでの時間に集中的に激しく犯罪を行います。ターゲットを裕福な層に絞りインターネットで金持ちを探したりもします。狙われたら最後、住宅を要塞化しない限り防ぐ手だてはありません。また、タイミングが悪ければ命の危険すらあります。しかし、この凶暴種は数は少なく、大半の窃盗犯は前者の職人タイプで「後者に狙われたら運が悪かった」というしかありません。(つづく)

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■住宅窃盗犯の素顔
 私は、検事を職とする方の住宅を設計したことがあります。100人以上の住宅窃盗犯を取り調べ、その一人ひとりと相対してきたこの方から、窃盗犯の特徴をお聞きすることができました。個別の積み重ねから生まれた総合としてのリアルな犯人像が際立った特徴をもつことに驚きました。
 この方によると、住宅窃盗犯は完全に2極分離しているといいます。一つの極はいわゆる空き巣で、何よりも捕まることを恐れ、ひたすら「安全」に「確実」に「容易」に盗めることを最優先します。そのため事前に住人の生活パターンを調査し、十分な不在確認の上犯行におよびます。犯行方法は専門分化しており、自分の専門技能以外は使いません。また専門分化が特殊技能を生み、マンションの12階まで排水管を伝って上るとか、バルコニーを懸垂の姿勢から上るなどの超絶技巧も存在します。一方、パソコンを持ち込み必要情報を盗み出すという知能犯もいます。概して職人気質であり、頭脳と技を使い計画性を重んじる専門職です。また大金のために危険を冒すよりも、少しの金でも確実に盗める方を選ぶローリスク・ローリターン指向です。性格は繊細・小心で、犯行時は極度に緊張し神経が高ぶるため、突然の音や光に異常に反応してしまいます。センサーライトやダミーのカメラでも、十分役に立つとのことです。(つづく)

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■ 巣の構造と現代社会
 さて前回は、「自分の情報は相手に見せずに、敵の情報を知る」ということがセキュリティの原則だとお伝えしましたが、このことと現代社会を重ね合わせると、私たちは、はなはだ危うい状況におやかれていることに気づきます。
 インターネットでの容易な情報収集や個人情報の漏洩など、今や自分の情報を守ることが難しくなっています。逆に予想を覆す犯罪手口や動機のない犯行など、敵を予測することは困難です。セキュリティ意識の高まりは、社会の深層構造の変化と結びついているのです。しかし敵の姿が見えにくいからといって、ひたすら防御するだけでは動物にも劣るセキュリティ対策といわねばなりません。住宅に侵入する犯罪者の姿をまずは見つめてみたいと思います。(つづく)

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■ 巣の構造
 今日は、生物の住処である、「巣」のセキュリティについて考えてみます。
 住まいの原点ともいうべき生物の巣は、実はセキュリティを第一につくられています。外敵から身を守ることは生存の前提だからです。動物学者によると動物の巣の構造は「vistaとshelter」という対概念が基本といいます。vistaとは巣から外への視界が開かれていることであり、近づく敵への速やかな対応のために大切です。shelterとは避難所としての安全性であり、堅固な防御、周囲への同化などが施されます。「外から内は目立たず、内から外はよく見える」ことが巣の原点なのです。
 この点を人間世界に当てはめると、まず求められるのは「住み手の在不在は敵に見せずに、敵の存在・情報を知る」こととなります。さらに敵の接近に気づいていることを敵に示せば、犯罪を未然に止める抑止効果となります。2つ目は、それでも迫ってくる敵に対して「内側を強固に守り、中にいれない」ことであり、文字通りの防御を意味します。防犯は、情報戦・頭脳戦ではじまり、そこで終わらない場合は、実戦・肉弾戦へと移行していくわけです。(つづく)

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■「建築家とのいえづくり」とセキュリティ
 セキュリティへの意識が高まりを見せています。住宅においても防犯は、防雨防風同様、必須の条件となりつつあります。しかし美しい建築空間に思いをはせる建築家にとって、人を疑う防犯対策はどうも肌に合わないのも事実です。根拠の明確でない不安感を背景に、姿のつかめない敵にむやみに対応することは、合理性に欠けると感じることもあります。防犯を意識するあまり個々の住宅が隔離されていく社会のあり方に疑問を感じる方も多いのではないでしょうか。
 しかし、生命財産を守ることも含め、住み手が深い安心を感じることは住宅の原点です。事後対策としてではなく積極的に防犯を受け止め、楽しみながら家づくりに生かしていく手だてはないものでしょうか。防犯は犯人との「知恵比べ」。ぜひこの「知恵比べ」に勝てる家をつくりたいものです。
これから防犯の基本的な考え方について、シリーズでお伝えしていきたいと思います。

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(株)プライム一級建築士事務所

プロフィール

(株)プライム一級建築士事務所

人間の内面と呼応する空間

【代表建築家 西島正樹】 プロフィール  1959年 東京生まれ  1982年 東京大学工学部建築学科卒業  1984年 東京大学大学院建築学専攻修士課程修了  1984年 ㍿石本建築事務所勤務  ...

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